My Philosophy of Strength and Conditioning III
   
          
私のストレングス&コンディショニング哲学3−日本人のためのS&C

 
アメリカの大学スポーツやプロスポーツに本格的なストレングストレーニング、コンディショニングといったものが導入されるようになってから約30年が経ちます。この間、様々な体力トレーニングやコンディショニングプログラムが、スポーツ先進国で開発され、現在では多くのスポーツ選手が、こうしたトレーニングの重要性を理解し、当たり前のように様々な体力トレーニングに取り組んでいます。また、スポーツ以外の分野でも、生活習慣病予防、運動不足解消をはじめ、高齢者の介護予防や生活の質の向上、そして子どもの体力低下抑止に至るまで、トレーニングは必要不可欠なものとして捉えられ、多くの一般人が様々なトレーニングを日常的に楽しむという状況に変化しつつあります。
 こうした背景の中、日本にもトレーニングに関する様々な理論や実践方法が海外のスポーツ先進国を通じて紹介されてきました。その結果、近年では多くの科学的根拠をもったトレーニングプログラムが推進されるようになりました。また、トレーニングに対する誤った理解やイメージも、以前に比べれば少なくなってきているように感じます。しかしながら、トレーニングに対する重要性が、スポーツ選手や一般人を問わず認識されてきている今、より日本人の特性や環境に適したトレーニングプログラムとそれらの指導、実践方法が構築されていかなくてはならない時代に突入したと言えるのではないでしょうか。
 先日、インターネットを見ていると、日本人は欧米人に比べて背中の筋肉がつきにくい、解剖学・運動生理学的にみるとハムストリングスや臀部等の筋肉が欧米人のものとは異なっている、と書いてありました。もともと狩猟民族であった欧米人は体の後ろ側の筋肉が発達し、農耕民族であった日本人は前屈みの作業が多かったことから、体の前側の筋肉が発達していったそうです。このように、歴史的な背景も含めて、現代のスポーツを取り巻く環境的要素が海外とは大きく異なっている日本の特性を十分理解した上で、より日本人に必要とされるトレーニングプログラムを考え、それらを実践、また指導していく必要性があるのではないかと思います。
 こうしたことを実現する為に必要なことは、@日頃から頭を柔軟にし、様々な情報を正しく咀嚼すること、Aそうした情報の本質をしっかりと理解し、自分なりの工夫やアイディアを加えて応用させていくこと、B選手やクライアントが本当に望んでいるもの、必要としているものを見つけ出すこと、Cそのために、1人1人と根気強く接し、1人1人に最も適したものを慎重かつ丁寧に模索していくこと、といった事ではないでしょうか。
 コーチ(Coach)という言葉には、『大切な人をその人が望むところへ連れて行く馬車』という意味があるそうです。多少時間がかかったとしても、乗り心地の良い馬車であれば、目的地までの旅は楽しいものになるはずです。馬車である私たちに最も必要とされることは、目的地までの最良の道を選び、大切な選手やクライアントを彼らが望む場所へ、丁寧かつ安全に送り届けることだと思います。これからの日本のトレーニング指導者には、こうした部分がより強く求められていくのだと思います。
 以前アメリカに住んでいた頃、選手の1人から、「日本人のストレングスコーチは、選手に対するアプローチやケアーの1つ1つが本当に丁寧だ」と言われた事があります。他には類を見ない日本人ならではの素晴らしい気質を上手に活かしつつ、日本人の特性や環境に適したプログラム作りや実践・指導方法を構築していくために、一層の努力をしていきたいと願っています。


(コーチングクリニック 2007年7月号に掲載した内容を一部改定しました)
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