My Philosophy of Strength and Conditioning IV
   
私のストレングス&コンディショニング哲学4−身の丈を知ること

 
トレーニングを通じた体力の向上が優れた競技力に繋がっていくことや、健康増進を目的としたトレーニングが生活習慣病予防や生活の質の向上に寄与する事等が世間一般で広く認知されるようになり、近年、競技スポーツを対象としたトレーニング指導(ストレングストレーニング等)や、パーソナルトレーニング等の個人指導の需要が大変高くなってきました。また、こうした需要の高まりと平行して、最近では、より効率が良く、効果的な質の高いトレーニング指導が求められるようになっています。トレーニング指導者として、こうした質の高い指導を実践していくために心がけておかなくてはならないことは何でしょうか?

 質の高いトレーニング指導を実践していくために取り組むべき事は様々にあると思いますが、その中の大変重要な取り組みの1つとして、トレーニング指導者自身が自分の身の丈を知っておく、つまり、自分の得意分野と苦手分野をしっかりと認識しておく必要性があると思います。世の中には、さまざまなタイプのトレーニング指導者が存在します。競技選手を中心に、傷害予防と軽減、競技力の向上を目指したトレーニング指導に多くの時間を費やしてきた専門家もいれば、健康維持や体力の回復・増進といった事を中心に、一般の健常者に向けたトレーニング指導に長い間従事してきた専門家もいるでしょう。このように、1人1人の指導者がもつ背景や経験、技能は非常にユニークです。自分がどのようなタイプのトレーニング指導者であり、他の専門性との比較の中で、どのような知識、技能を得意としているのか等を頭の中でしっかりと整理し、把握しておくことは、トレーニング指導者として大変重要なことです。自分の専門性に関する知識の範疇や経験値の深さを把握できていないまま選手やクライエントに接することは、トレーニング効果を引き出せないばかりか、傷害の誘発にも繋がりかねず、大変危険なことですし、最終的に選手やクライエントとの信頼関係を失いかねません。また、知識だけを多くもっていても、それぞれ特異な指導に関する深い経験値を持ち合わせていなければ、選手やクライエントの求める質の高いトレーニング指導には繋がってこないでしょう。なぜなら、同じエクササイズでも、アスリートに対する指導方法と一般の健常者への指導方法は大変異なり、1つ1つのトレーニングにおける量や強度、微妙なさじ加減、トレーニング中の声のかけ方や励まし方、そしてモティベーションの引き上げ方に至るまで、それぞれは非常に千差万別で繊細なものだからです。ですから、自分の専門性に関しての身の丈を十分に把握し、自信を持って確実に実施出来るトレーニング指導を心がける事は、大変重要なことなのです。また、自分の範疇を超えたところでの指導を求められる状況下では、可能な限り、クライエントや選手の求めるニーズにあった専門的な知識と経験値を持ち合わせている他の指導者と上手な連携をとり、協力してより良い指導を提供することも非常に大切でしょう。このようなアプローチが、結果としてより質の高い指導となり、選手やクライエントへの信頼性や満足度に繋がっていくのではないでしょうか。
 
 対象や目的に応じた科学的根拠に基づく適切な運動プログラムを作成し、これを効果的に指導・運営していくためには、トレーニング指導者自身が日々研鑽し、自分の知識と技能、そして経験という身の丈を、継続的に伸ばす努力をしていくことが大切です。こうした1人1人の指導者の小さな努力の積み重ねが、社会のトレーニング指導者に対する評価を引き上げ、社会的地位の向上に繋がっていくものと考えられます。

 『学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない』というロジェ・ルメール(
1998年ワールドカップ優勝、2000年ヨーロッパ選手権優勝のフランス代表チーム監督)の言葉は、全てのトレーニング指導者にとって、とても大切な言葉であるように思います。

 

(JATI EXPRESSに掲載した内容を一部改定しました)
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